スモールM&A・事業承継の実態「俺の会社は継がせない」

事業承継とM&A, 誰でもできるM&A

九州で布団メーカーを営む本塩周作さん(仮名)は二代目社長。会社は業歴80年を超える老舗企業ですが、手縫製法にこだわり、低価格・効率化の波に乗り遅れたため業績は下がる一方です。金融機関からの借り入れも増えており苦しい経営が続いています。最近あるコンサルタントから「手縫いの布団をレアな高級品としてインターネットで拡販する案」を提案されましたが、そのためには新たな借り入れをしなくてはいけません。本塩社長は御年70歳。自分一人でこの会社を引っ張っていくのには限界を感じています。

「あいつが跡を継いでくれていたら…」

そう思った相手は41歳になる一人息子の幸二郎さん(仮名)。東京の有名私立大を卒業し大手電機メーカーの研究員として働きながら、奥様と二人の子供とともに東京郊外にマイホームを建てて暮らしています。

かつて幸二郎さんからは、大学を卒業するとき後継者として実家に戻るとの申し出がありました。持病の糖尿病を悪化させている父、本塩社長を少しでも助けたいと思ったのでしょう。しかし、それに反対したのは、ほかならぬ本塩社長自身だったのです。

「人口減少に輸入品や低価格化の波で、業界の先行きは暗い。金融機関からの借り入れも膨らみ、資金繰りに雇用にと経営の悩みは尽きない。自分は先代の跡を継いで10年間この会社を守ってきたけれど、息子にはこんな思いをさせたくない」

子供の頃から機械や車に強い興味を持ち、エンジニアを目指して東京の有名私立大に現役で合格した自慢の息子に、この会社を継がせるのは忍びなかったのです。そんな本塩社長は息子さんに会社を継がせなかったことを後悔しませんでしたが、経営が苦しいとき、「もしあのとき」と考えてしまうのは、仕方のないことなのでしょう。

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